今回は「八ヶ岳周辺水系に生息する幻の渓流魚秘話」と題し紹介させていただきます。(やや専門的で長文になりますが、ご興味のある方はご一読くださいませ。)
八ヶ岳周辺水系には地元の住民でさえ知る人ぞ知る「幻の渓流魚」が2種類存在することをご存じでしょうか?
その幻の渓流魚とは八ヶ岳周辺水系のみに生息、生育、繁殖している固有亜種、降湖型サツキマスの「諏訪マス」
★ 今年の初夏に遡上した諏訪マス ★
在来原種とされる「信州縄文アマゴ」の2種。
★ 信州縄文アマゴ ★
2種とも太公望の私がターゲットにしている魚です。
最初によくある質問に対して回答させていただくと「その魚は何処で釣れますか?」との問いに・・・
それは「マツタケの取れる場所を教えてください」と同じで、
詳細のポイントは希少種を守る観点から記載することは出来ません。
しかし蓼科ビレッジから近い場所に存在していることはだけは事実なのです。
「諏訪マス」と「縄文アマゴ」は遺伝子分析により遺伝的な共通性が確認されていると言います。
川に留まったアマゴが「縄文アマゴ」諏訪湖に降って成長した後に遡上するサツキマスが「諏訪マス」と言います。
今回のVer.1は降湖型サツキマスの「諏訪マス」を中心に紹介したいと思います。
さて、サツキマスとは5月頃に遡上することから、サツキ(皐月)を冠した名前がつけられています。
因みにアマゴの降海型をサツキマス。ヤマメの降海型をサクラマスと呼びます。
皆様の中にはアマゴは知らないがヤマメ(山女魚=渓流魚の女王とも呼ばれる)なら聞いたことあるという方は多いのではないでしょうか?
★パーマークがあるが朱点がないヤマメ★
ヤマメは「日本海側に注ぐ河川」と「太平洋側に注ぐ東日本の河川」に主に生息し、反対にアマゴは「太平洋側に注ぐ西日本の河川」に生息しています。
その2種も八ヶ岳水系が日本の分岐点の一つとされています。
具体的には国道152号線沿いの大門街道には「音無川」と「大門川」が隣接しています。
白樺湖付近を源流とする「音無川」はやがて天竜川へと流れ太平洋に注ぐので、ここから西日本には「アマゴ」が生息します。
また大門街道を降ると「大門川」が流れ、日本海に注ぐのでここから東日本には「ヤマメ」が生息しているのです。
つまりビレッジから少し車を走らせればこの2種を釣ることができるのです。
(※但し漁協が2つに分かれているので、それぞれ遊漁券が必要になります)
さて話を戻しましょう。
サツキマスは海水耐性を持つ体になって海まで下って成長した後、サケのように
生まれた川に帰る降海型が一般的で、天然分布の降湖型は「諏訪マス」のみだそうです。
冬から春までの間に諏訪湖のワカサギを沢山捕食して体高や厚みも増し
遡上の時期になると体長35㎝~40㎝以上になり、体重も1キロを超える場合もあるのです。
その魚体はパーマークが消え、アマゴ特有の朱点を残しながらも銀化した美しい姿となります。
寿命は2年で産卵を終えるとサケと同じ運命を迎えます。
地元の釣り愛好家からは「諏訪マス」「遡」「ノボリ」などと呼ばれ、
私もこの魚を「ノボリ」と呼びます。
この魚だけを追い続けている地元愛好家も存在し、Tシャツなどグッズまであります。
通常の釣り方はルアーと餌釣りになりますが、私はルアー専門で狙っています。
中でも遡上中の諏訪マスは攻撃的で、そのファイトは勇ましく、コアな太公望の心を熱くさせる魚なのです。
しかし、毎年遡上する魚の絶対数は少なく、遡上した中で障害となる高い堰を飛び越え、産卵地に辿り着ける諏訪マスは極めて少数であるとされます。
この魚を狙い何年も追い続けて、まだその姿さえ見たことが無いという
太公望も多くいます。
(※禁漁の時期について諏訪東部漁協では9月末までとなります。)
また地元では諏訪マスを後世に残そうとしているグループ
「諏訪マスプロジェクト」が環境保護活動を行っています。
ここ最近、地元を騒がす大きな事件が起こりました。
数年前から大手開発会社の大規模太陽光発電施設「四賀ソーラー事業」進んでいました。
その計画地内に最重要の産卵地があるため「諏訪マスプロジェクト」や地元を守る有志達が反対運動を行ったのです。
「絶滅回避に向けて配慮してほしい。死滅してからでは取り返しがつかない!」
「地域の固有種はふるさとの誇り、その地域にいるべき魚がいられる環境は何が何でも守り、後世に残していかなければならない!」
と訴え続け、署名活動も行われました。
やがてこの運動が大きな輪となり大規模太陽光発電施設は中止されたのです。
最後に近年まで「諏訪マス」は漁協から放流された養殖の降海性遺伝を持つアマゴが諏訪湖に降りサツキマスになったと言われていました。
多くの人がそう思い、私もその説を信じていた一人でした。
なぜなら、既に日本の渓流魚の殆どが人の手によって交配され、放流に適した系統だけが残り、本来いるべき在来原種の姿は数限りなく絶滅していったのです。
しかし最近の研究により地元の固有亜種である可能性が浮上し、放流魚との交配はなかったとの説が遺伝子分析で明らかになろうとしています。
これは河川の事例として極めて異例であると言えるでしょう。
★ 「遡-奴らは河の向きを知っている」写真提供:つり館松田屋 ★
まさに幻の魚と言って過言ではない渓流魚それが「諏訪マス」なのです。
更に詳しい情報を知りたい方は「つり館松田屋」まで!
「次回Ver.2では縄文アマゴの秘話について記載する予定です。」